北の縄文ニュースレター

2013.04.11

2013年3月2日 道民会議シンポジウム/基調講演 猪風来氏

北の縄文道民会議シンポジウム

札幌ではアシリチェップノミなどに通い、アイヌ民族のシャーマニズムの世界に触れることができました。もう他界されましたが阿寒の長老・アキベエカシが祀りを取り仕切っていて、かれの手ほどきも直接受けました。そうしたなかから生まれた作品が、「叫魂華(きょうこんか)」です。これは心のなかを作った最後に、まだ出し切れずに残るもの、一番心の底にどろっと残るものをはき出して作った作品です。高さが110センチあります。

「叫魂華」(1991年)

 

 

 

 

 

 

 

「叫魂華」(1991年)

 

これは「縄文の太陽」という非常に大きな5.4メートルの作品です。

「縄文の太陽」(1994年)

 

 

 

 

 

「縄文の太陽」(1994年)

その後、再び私はスランプに陥り、何かをつかみたいと考えました。そこで、浜益の黄金山の中腹にちょうどよい空間があり、断食をすることにしました。私の住居は山の麓で、3反の畑を開墾し、2反の田んぼを借り、電信柱で2階家を作り、となりに竪穴住居を作り、自給自足の生活を行っていましたので、断食中は中腹のテントと麓の竪穴を毎日往復しました。そこで私は第三の開眼を迎えます。
断食とは死に近づくことですが、断食をはじめるとまず五臓六腑が暴れ出します。胃が「食べ物をよこせ!」と暴れて要求してくるのです。それをなんとか押さえると次のレベルに達し、身体を生かすために新しいシステムが作動して、身体中の脂肪を必要なところに運び始めます。このときは身体中に清涼感が流れ、ものすごく気持ちがよくなります。脂肪を運んでいることがわかるんですよ。
それが6、7日めになるとピタッと止まり、周りの森や山々と反応し始め、さらにものすごい感覚に陥ります。完全に周りの森と一体化するような、身体中に清涼感のある透き通ったブルーや透明のグリーンの精気が突き抜けるような感覚になります。このまま行ってしまいたい、という気持ちになりますが、そのまま行くとまずいことになりますね。死の領域に入ってしまいます。
そしてこのとき、自分を死の淵から生を霊視する視点、心眼で見る私流のシャーマニズムの視点を獲得しました。これが第三の開眼です。また、そういったなかで「縄文山河」という8メートルの長い大きな作品が生まれました。

「縄文山河」(1995年)

 

 

 

 

「縄文山河」(1995年)

 

以前、全国8カ所で列島横断個展を行いましたが、沖縄では佐喜眞美術館が引き受けてくれました。そのときに沖縄では“女性の祭”があることを聞き、私はぜひ見たいと思いました。しかし、“女の祭”は男子禁制で見てもいけない、見たとしても、見たと言ってはいけない、とのことで、この掟を破れば死ぬとまで言われました。困ったなと思って探したのが、沖縄の祭祀を撮影している比嘉康雄さんという写真家で、彼に会って欲しいと電話しました。
沖縄のあるバーに来てくれと言われたので、そのカウンターで酒を飲んでいましたら、スッと店に入ってきた人がいました。あ、この人だとわかりましたがお互い面識がないので黙っていて、その人もカウンターで飲み始めました。しばらくすると彼が近づいてきて、「あなたですね」と言うんです。「はい、よろしくお願いします」と言うと、しばらく私を見て「あなたなら大丈夫。どこにでも入っていけます。私が案内しましょう」と言われました。旅館や飛行機のチケットなど手配も全部しますから、この日にここへ来てくださいと指定され、私は「はい、必ず行きます」と答えました。それだけです。あんた何やってるの?とかそういうことは何も聞きません。これはびっくりしました。
かれは自分の心眼を絶対的に信頼しているんですね。自分が何十年もかけて信頼関係を築いているフィールドに、大和人など連れていって問題が起こったらたいへんなことですが、あの人はおそらく霊視ができるのでしょう。
それで、女たちが草冠をかぶり、手に草を持って、白装束を着てお祭りを行うのを私は隠れて見てきました。世の豊穣を請う「ユークイ」という祭で、それをヒントにして私が作ったのが「黒潮の海」という長さ13メートルの作品です。向こう側に見える女性は宮古で行われる祖神祭「ウヤガン」の風景です。これは大神島で15、6年前に遭遇しました。見たときは絶対に話してはダメと言われましたが、古酒(くーす)になったら大丈夫、つまり10年以上経ったらしゃべってもいいよと言われましたので、もうしゃべっても死ぬことはありません。

「黒潮の海」(1998年)

 

 

 

 

「黒潮の海」(1998年)

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