北の縄文ニュースレター

2013.04.16

2013年3月2日 道民会議シンポジウム/対談 猪風来氏×阿部千春氏

 

シンポジウムの後半は、猪風来氏(縄文造形家)と阿部千春氏(函館市縄文文化交流センター館長)による対談でした。

■テーマ「縄文から未来へ〜世界遺産登録に向けて〜」

司会)いよいよ最後のプログラムです。縄文文化交流センターには国宝となった中空土偶が常設展示され、他にも価値ある多くの出土品を見ることができ、その意味を知ることもできる縄文ワールドが広がる博物館です。館長の阿部さんはもちろんこの道民会議の呼びかけ人の一人で、世界遺産登録に向けても日々活動なさっています。縄文に対する深い愛と情熱あふれるお二人にお話しいただきます。よろしくお願いします。

 阿部氏)皆さんこんにちは。猪風来さん、お久しぶりです。猪風来さんと会ったのは平成11年頃でしょうか。猪風来さんが北海道に住み始めて間もない頃だと思います。幌をかけた軽トラックに土器を積んで大船遺跡にフラッと現れて。あのときは、まさに放浪者という感じでしたね。

 猪風来氏)カックウを見たくて行ったのですが、「箱入り娘」で見ることはできませんでしたね。

 阿部氏)そのときにトラックに積んでいる土器を見せてもらい衝撃を受けました。それから10数年経って 、NHKのテレビ日曜美術館「土偶」でご一緒するとは夢にも思いませんでした。今日はまず、中空土偶を中心に縄文談義を進めたいと思います。
この中空土偶は、茅部の中空土偶で「カックウ(茅空)」という愛称がついています。これはレントゲン写真ですが、ご存じにように中身が空洞になっています。ときどき「空中」土偶と言う人がいますが、空中に浮いているわけではありません。
中空土偶

 

 

 

 

 

 

そもそも土偶というものは縄文時代の始まりとともに生まれました。最初は乳房をつけただけの簡単な造形ですが、中期には非常に豊満な女性像になります。後期には女性らしさが少しそぎ落とされ、男性的な要素が入ってきます。カックウは縄文時代後期後半のものです。
土偶の変遷

カックウと同じような顔つきの土偶は北海道だけでなく、青森、宮城、東京でも出土しています。
これは仙台市博物館所蔵の蔵王町下別当(げべっとう)遺跡の土偶ですが、まだあまり知られていない遺物です。北海道教育委員会の西脇さんに教えてもらって一緒に調査に行きましたが、顔だけ見るとカックウにそっくりです。特徴的なのは一本眉毛と高い鼻、頭のところにある三角形の文様、それとコーヒー豆状の目と口、あごにはヒゲのようなものがあります。
ただしこれは土偶ではなく、土器につけられた人面の装飾です。左は取れていますが、頭に筒状の口が2カ所あり、カックウも頭に2カ所穴が開いているので、このような口がついていたと考えられます。
下別当遺跡出土

 

 

 

宮城県蔵王町下別当遺跡出土

 

人面が付いた胴部がドーナツ状の注口土器は、縄文時代後期に作られますが、そこから中空土偶が発生してきたのではないかと考えております。これらも一本眉毛で、コーヒー豆のような目と口、高い鼻、そしてヒゲ状のものがありますが、共通しているのは筒状の口が2つあることです。また、注口ではなく、下に穴が開いた「下部単孔土器」と呼ばれるものもあります。

尾形遺跡出土

尾形遺跡出土

 

狐森遺跡出土

狐森遺跡出土

高井東遺跡出土

高井東遺跡出土

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜ筒状の口が2つあるかと言うと、函館市に佐藤国男さんという版画家がいるのですが、やはり芸術家のほうが核心をついてきますね。ヘビにはオスもメスも生殖器が2つあり、メスの生殖器はこの口とそっくりなのです。「縄文人は、ヘビを生命力の強さや命の再生の象徴と考えて、その生殖器を付けた」、というのが彼の主張です。そのあたりはのちほど猪風来さんからも聞きたいと思います。
一般的に土偶は割れて出てきますが、カックウも壊れた状態で出土しました。胴体部分はクワが当たって割れたのですが、もともとは腕もついていたはずです。そして頭には先ほどの筒状の口が
2カ所ついていたと考えられます。これが偶然に壊れたのか、または意図的に壊したのか、考古学上はまだ論争中ですけれども、これを調べるために函館市立病院でCTスキャンをかけてもらいました。
実は病院に持っていきましたら、最初は「だめです」と言われました。この器械は人間を計測するものなので目的外使用になります、と。そこで私は、これには「カックウ」という名前がついているんですと言ってお願いし、かけてもらうことができました。診察券も作ってくれました。粋な函館市立病院ですね。性別は女性、年齢は
3500歳ですが、それはさすがにないので一番古い明治2年です。

CTスキャンによる観察

かっくう診察券

 

 

 

 

 

CTスキャンでおもしろいことがわかりました。左は胴体内部です。粘土紐を積み重ねて中空にしていきますが、重ねたままだとすぐ壊れてしまうので、それを壊れないように指でなでて補強しています。ところが、右の足の部分には、つなぎ目がはっきり写っています。このままだと簡単にポロッと壊れてしまいますが、意図的にそのままにしていることがわかりました。

かっくう内部

 

 

 

 

かっくう断面

 

 

 

 

この土偶の文様は、丸と三角の二つの組み合わせで成り立っています。表側は三角に丸が入っていますが、裏側は丸に三角が入っています。しかも表は外側に膨らむような三角、裏は内湾するような三角で、ちょうど球体の表と裏のような関係になっています。三角形をどんどん増やして多角形にしても、けして丸にはなりません。まったく違う二つの要素によって文様が成り立っているのです。

かっくう文様

 

 

 

 

 

 

 

足の部分には漆を塗っています。最初は黒漆だけが見えましたが、内ももをよく見ると、上に赤漆ものっていることがわかりました。この技法自体も難しいだろうと思いますが、赤と黒の対比に特別な意味を持たせているのだろう、と考えています。

漆塗りの足

 

 

 

 

 

 

 

 

このように二つの違う要素が組み合わされるのは土偶だけでなく、縄文文化のいろいろなものに見られます。カックウも女性的な要素のなかに男性的な要素が入っていますが、女性と男性の二項が対比する形で作られている土器もあります。写真の土器は、一つの住居の床面からセットで出土しました。女性の土器は下に穴が開いていて、赤い顔料を塗っています。突起は5つで奇数です。男性の土器は黒い顔料で、突起が4つで偶数です。

 

 

 

 

 

 

色についても二つの要素のものがたくさんあります。たとえば、翡翠は母岩が白で、白のなかに緑が入っています。こちらの土器は赤色ですが、この下には黒漆が塗ってあります。こういう二つの相対する要素が融合しているのが、縄文時代の基本的な世界観ではないかと思っています。
二つの要素

 

 

 

 

 

これは縄文文化交流センターの展示の様子です。ぜひ見に来てください。縄文文化交流センター
次に、猪風来さんが実際に土偶作りをしたときのことをお聞きしたいと思います。

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